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小泉訓×玉乃淳 ”サッカー選手は消防士に向いている”

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元サッカー選手の資質

小泉 もちろん、そのときどきの採用人数も関係します。体力的なテストもあります。半年間、消防学校というところで寮生活をおくりながら消防職員として必要な基礎教育を受けます。災害活動や事務処理について学んだり、礼儀服装、公務員の倫理的なことを教わったり。その後、都内の消防署で約6ヵ月間実務教育を受け、消防署へ配属されます。

玉乃 消防士の生活リズムは?

小泉 いつでも出動できるように24時間勤務です。24時間働いて、次の日は「非番」となります。週3回ほどの勤務ですね。労働基準法で休憩時間なども決まっているから、24時間勤務の間に仮眠を取る時間帯もあるのですが、呼ばれたときにはバッと起きて出動です。

玉乃 色々な状況の現場があると思いますが?

小泉 住宅一棟燃えているときもあります。自分の身も危ないですし、仲間の身も危ないですし、もちろん助けないとならない人もいるし。

玉乃 火事は、結構頻繁に起こるものなのですか?

小泉 東京だと1日あたり平均10〜12件とか。私が配属されている消防署では、2~3日に1件火災が起きているイメージになります。出場自体はほぼ毎日しています。

玉乃 うちの実家の側にも消防署がありますけれど、いつも訓練がすごいなと感心させられます。

小泉 準備しなくてはならいないので。サッカーと一緒です。いつ呼ばれてもいいように常に準備をしています。

玉乃 すごい仕事を選びましたね。年を重ねて、役割は変わるものなのですか?例えば、現場から管理職…みたいに。

小泉 そうですね、外部への対応や職員を管理する立場の管理職になっていく方もいますし、現場がよくて、ずっと現場にいる方もいます。現場一筋の方ですね。現場で階級を上げて隊長になる方もいます。隊長も小隊長、中隊長、大隊長などの立場があり、内部のキャリアもいろいろですよ。まあ24間勤務が年齢とともにキツくなりもしますからね。

玉乃 楽しいっていったら語弊があるかもしれないですけれど、充実していますか?

小泉 そうですね。楽しいかって聞かれると、現場は不幸な場所なので楽しくはないですけれど、やりがいは持ってやっています。

玉乃 実際の火事だから本当に人が亡くなるケースとか、普通に日常にありますよね?

小泉 そのような場面に遭遇することもあります。急病やケガなどの救急現場に行くこともありますし、交通事故や電車の挟まれ、そういう救助活動。火事ではなくてもそういう現場もあります。

玉乃 ここまでの話で、「なりたい」とは思えない、消防士に。正義感なのでしょうかね、動機って?ありました? 昔、正義感? 現場に出ていく中で変わったのですかね?

小泉 なかったですね、昔は。自分さえよければいいやタイプでしたね。サッカーやめて公務員になって叩き込まれたって感じですね。

玉乃 実際、消防士になったらかなりハードじゃないですか。離職率は?

小泉 現実が厳しすぎて、消防学校の段階でいなくなる人もいます。体力面もさることながら、階級社会なので、とにかく厳しいです。サッカーの上下関係の感じで行ったらやられますね(笑)。「あ、サッカーで学んだ上下関係じゃダメなんだ」って、思いました。あと、縛りが大きいですよ。例えば、どこか旅行するというときも届け出ないとならなかったり、休みの日でも所在は明らかにしなければならなかったり・・・。東日本大震災のような緊急時には参集しなければならないので。

玉乃 プライベートも管理されるのですね。

小泉 そうですね、されます。そういうのがイヤな人は難しいですね。誰と出かけるなども報告します。

玉乃 誰とデートするとかの報告も?

小泉 それは報告の必要はないのですが、さらっと監督者には言いますね。最近はやりのSNSもあまりよくないです。そこで身分を明らかにすることや、消防士としての意見を言うことはダメですね。

玉乃 「奇跡」ですね、この取材。

小泉 確かに。でも機密事項に触れるようなことは一切言ってないので大丈夫です。これを機に増えますかね、サッカー選手から消防士?

玉乃 増えないでしょうね、これを機に。

基本的にサッカー選手って、監視されたくないですよね。自由が命みたいな。向いていないでしょうね。体力的なところはクリアできるかもしれないですけれど、学力と、監視されているという2点で、コイちゃん以外は不可能でしょう(笑)。しかも公務員だから給与面では安定しているかもしれないですが、命の安定は無いですからね。

サッカー選手から消防士への転身、意外と「有り」

小泉 でもやっぱりやりがいありますよ。特に災害現場では、人々が逃げていくところに向かっていく危険な仕事ではあるのですが、時間の経過とともに悪化していく環境で日々積み重ねた技術や連携を発揮して、人命救助や災害を鎮めたときにはとても充実感や達成感がありますね。他の職業にはできない仕事に自覚と誇りを感じています。人々の安全を守る完全にプロ集団ですから。そういう意味ではサッカーと共通するものがあります。同じ試合がないように同じ現場もありませんし。ずっとやっていきたいなっていう思いは強いですね。現場で頑張って行きたいなと。

玉乃 奥さまは心配なさらないのですか、出動のたびに?

小泉 妻も職員なので。だから内情を知っています。危険度や仕事の内容も知っていますからね。

玉乃 なるほど。それはこころ強いですね。よく現場に出る前にお祈りしたり、「これが最後のメールになるかも」とメールしたりは?

…ドラマ見すぎですかね?

小泉 あんな時間はないです。出て行くときは1分以内には出ます。東日本大震災などの災害派遣のときは、家族の方に連絡していた方もいらっしゃいましたけれどね。

玉乃 事故や災害が大きすぎて、「行きたくないです。」みたいなのは許されるものなのでしょうか?

小泉 原則、命令は絶対です。でも、災害派遣などの特殊な災害では場合によります。でも自ら志願して行かれる方がほとんどですね。

玉乃 現役時代、引退後消防士になるなんて、夢にも思っていなかったのではないですか?

小泉 思っていなかったですね。自分もインテル(サッカーチーム)とか行くと思っていましたから。けれど、やれるだけのことはやったつもりでしたから、後ろ髪を引かれる思いはなかったですよ。もちろん練習後の自主練は欠かさなかったし、筋トレしたり、自分のプレーを見直したり、世界の試合を見てサッカーを研究したり、当たり前のことですけれど、自分の中でサッカーと向き合った結果がコレでしたからね。

小泉 みなさん、意外と「切り替え」早くないですか、サッカー選手?

玉乃 いや、やめてすぐ消防士になるって人は、それほど多くないでしょうね。生活のために会社勤めしなければならないっていうのはあると思いますけれど。

「海賊王になる!」みたいな、明確な目標は少ないと思いますよ。多くの場合、何をするかを決めるのが引退後の一番の大変な作業になるでしょう。

小泉 サッカーと消防って共通する部分があります。

一つの技術を磨くっていう点はもちろん、現場では視野を広く冷静に判断しながら活動しなければならないし、チームワークや連携も必要となりますし。身体が資本で常日頃から鍛えていなければなりませんし。サッカー選手から消防士への転身、意外と「有り」だと思います。公務員試験さえ受かれば、高卒でも問題ないですし、論文試験もありますけれど、気合でなんとかなります。とにかく最初の試験勉強を頑張ればなんとかなります。なろうって決めたら、あとは「サッカー選手だったのに、今は無職。」って、自分にプレッシャーかけてやるしかないです。

玉乃 本気になったら、どこへ行くのでしたっけ?

小泉 「大原」です(笑)。どこであれ、本気になったら、その道の専門家のところへ。公務員試験受けるなら資格の学校へ。消防士でなくても公務員はいろいろありますからね。警察、自衛隊、学校の先生、役所。プロスポーツ選手だった人なら、集中力ありますからね。試験勉強は大丈夫だと思いますよ。

玉乃 確かにそういう考えあってもいいですね。プロスポーツ選手が、引退後、社会的に安定しているといわれている公務員になるという考え。

何歳からでもスタートできますよね?

小泉 いいえ。試験は職種によって各々年齢制限があります。消防士の採用も自治体によって異なりますが年齢制限があり、私が試験を受けたときは、たしか30歳未満という年齢制限がありました。

玉乃 知らなかったですよ、そういう大切なこと!僕はもう受験資格ないね!

コイちゃんにとっては当たり前でも、知らない人、結構いるよ。

(編集部注:消防官採用には身長や体重などの身体的受験資格もあります。)


いきいきと日々の充実ぶりを語る小泉氏の姿は、現役時代のそれと何一つ変わりませんでした。現役時代同様の刺激を日常から得たいという動機から消防士というセカンドキャリアを選んだことについて、共感できるところもありますが、死と隣り合わせの厳しい現場に出勤することは、自分のことに置き換えて想像することすらできません。そして、キャリア自体が、責任感という気持ちを芽生えさせ、心の中で成長させていくことに強く感心させられました。

プロ選手としてのキャリアはわずか2シーズンでしたが、サッカーがとにかく大好きで、ご子息もサッカー選手にしたいという小泉氏。いまだに草サッカーでボールを蹴り、ピッチの火消し役を務めることもあるそうです。ますますのご活躍と安全をただ祈っております。


小泉訓(こいずみ・さとし)プロフィール

名門前橋育英高校を経て、2004年鹿屋体育大学へ入学。中盤の底で献身的な運動量を武器に活躍し、2007年全日本大学選抜に選出。2008年徳島ヴォルティスに入団したが、出場機会に恵まれず、わずか2シーズンをJリーガーとして過ごし現役引退。引退後は1年間の充電期間を経て、2011年東京消防庁へ入庁。現在は、消防士として現役時代さながらの献身的な活躍で、東京で生きる人の力となっている。