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樹林伸×玉乃淳 “好きなことの延長上じゃないと長続きしない”

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お金の有る無しで、幸福感は変わらない

玉乃 それにしても、本当にこの取材最高です(笑)。サッカーとの出会いも教えていただけますでしょうか?伝説の大作「シュート」はもちろん連載中の「エリアの騎士」も読みました。

IMG_5130 2 のコピー樹林 留年してライターのアルバイトをしていたときに、メキシコワールドカップがあって、夜中テレビでマラドーナの5人抜きを見たんだよね。これがサッカーとの出会い。「なにこれ?漫画かよ。」って思って、それから、とにかくマラドーナのことを調べるようになったんだよね。マラドーナとサッカーが好きになって、いろいろ調べているうちに、Jリーグを立ち上げるっていう話を知った。それで講談社入社が決まった時点で、時流にのるという意味でも絶対サッカー漫画をやろうと思って…で、入社間もなく準備し始めて、「シュート」が始まったんだよね。

玉乃 そもそも、どうして、そんな入社間もない新人がいきなり原作のストーリーづくりを任されるのですか?そんな大役、普通は…。

樹林 勝手にやっていたの。新人だから。もうガンガン勝手に。とにかく面白かったから。周りの先輩達にも恵まれてね。とにかく会社にいる人たちがよくて、いい会社だったよ。そりゃ、すぐ辞めるつもりで入ったのに12年間もいさせてもらうよね(笑)。

玉乃 そんな素晴らしい会社から、いざ独立を決心したときの心境は?

樹林 週刊少年ジャンプを追い抜くまで、講談社の社員としてやろうと思っていて、それを達成したので、もうこれでオッケーだろうと思ってやめたんだ。もうここでやる仕事は全部済んだと思って独立したんだよ。でも講談社時代は社員だったけれど完全に作家業みたいなことをしていたから、「独立」という強い意識みたいなものはなかったかな。

IMG_5236 2 のコピー玉乃 ものすごく謙虚ですよね。12年間も社員の給料で仕事されていたわけですから。独立すれば数億という数字が見えていたのに…。

樹林 まあ、いいかなって思っていた。お金は、あればあるに越したことないんだろうけれど、有る無しによって幸福感が変わることはないじゃない。
この前、中田ヒデ(中田英寿)が一緒に飲んでいるときに同じようなことを言っていた。「僕、働いたことないんですよ」って彼は言うんだよね。「何を言っているんだ、あなたは?」って思うよね。でも彼にとって趣味の延長がそのまま仕事になっていて、サッカー好きでやっていたら、いつの間にかそれが仕事になっていたし、いまも日本酒が好きで…。つまりね、「お金もらうための仕事」って割り切る感じで働いても幸福感は得られないと思うんだよね。ヒデと話していて、「ああ、オレもそんなだっかな、いま思えば。」って振り返っていたんだよね。講談社の1年目から変わらず好きなことをやり続けて、やっているうちに、それが次第に仕事になっていっただけ。好きなことの延長上じゃないと長続きしないよ、何事も。そのことをあまりピンとこないままで、やっている人っていうのは、なんとなく遊びに走っちゃったり、ずれていったりするんだと思うよ、きっとね。

 


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実に感銘を受けた対談でした。

僕自身が格闘し続けている自分との戦いにヒントを与えてくださった樹林氏。輝かしいい名声もワイン専用の部屋も羨ましがられる暮らしもそれらが目的で得たものではありませんでした。すべては日々の積み重ねです。ただただ「好き」で読書に明け暮れた幼少期、新人の特権でチャレンジし続けた青年期、呼吸を止めて1日100枚の原稿用紙に書く日々、樹林氏の歩みすべてが彼の人生の礎になっていて、それが人生そのものなのです。そして、すべては「好き」の延長上にありました。

「神の雫」で主人公神崎雫も樹林氏を代弁し教えてくれています。「幸、不幸にかかわらず、人にとって過去は現在を生きるために根ざす大地。『天』に恵まれ『人』に愛されていたとしても『地』に根ざさない生活に本当の実りはない。『天・地・人』のすべてが揃ったときに初めて、素晴らしいワインが生まれるように。」
僕は、何が好きで、どういう性格で、これまで何に時間を費やしてきたのでしょうか。過去をさかのぼり顧みることは、ときとして苦しみを伴いますが、勇気をもってこれまでの自分の「歩み」を振り返ってみたいと思います。

 

樹林伸(きばやし しん)プロフィール

漫画原作者・脚本家・小説家。
早稲田大学政治経済学部卒業後、1987年講談社に入社し、「週刊少年マガジン」編集部で漫画編集に携わる。その後、漫画原作者として数々のヒット作を世に出し、1999年に講談社を退社、独立。現在「7つの名をもつ原作者」として引き続きヒットメーカーとして大活躍中。
この10月(2016年)から、市川海老蔵主演で、テレビ東京系列で放送予定の「石川五右衛門」などの脚本も手掛ける。